尋常性天疱瘡 Pemphigus vulgalis

口腔粘膜疾患

解説

皮膚、粘膜上皮層に大小の水疱形成を認める自己免疫疾患である。

臨床事項

  • 粘膜優位型と皮膚粘膜型に分類される。
  • 口腔粘膜では歯肉、口唇、頬粘膜、口蓋粘膜などに広く発現する。
  • 水疱は破裂し、びらんを生じる。
  • 病変部周囲を擦過すると上皮は容易に剥離する(Nikolsky現象)。
  • 天疱瘡のなかで口腔粘膜に最も多く生じるのが尋常性天疱瘡である。

病理組織所見

  • 自己抗体(IgG)により棘融解を生じ、水疱が形成される。
  • 粘膜固有層に基底層細胞が残存する。
  • 水疱内に、剥離した上皮細胞が浮遊する(棘融解細胞、Tzanck cell)。
  • 棘細胞間にIgG沈着がみられる。

その他

  • 自己抗原はデスモゾーム構成分子のデスモグレイン(Dsg)で、傍基底細胞層に最も多く発現する。
  • 粘膜優位型ではDsg3が、皮膚粘膜型ではDsg1とDsg3が発現する。
  • DsgにIgGが結合し、細胞間結合が障害され、棘融解が生じ、上皮内に水疱が形成される。

鑑別疾患

  • 他の水疱性疾患

代表画像

下唇の病変

口唇粘膜に水疱が形成され、水疱は破れ、びらんがみられる。

口蓋の病変

  • ガイド無し
  • ガイド有り

口蓋粘膜にも水疱形成や破裂後のびらんがみられる。

口蓋粘膜にも水疱形成(黄矢印)や破裂後のびらん(白矢印)がみられる。

棘融解による上皮内水疱

  • ガイド無し
  • ガイド有り

基底細胞層は粘膜固有層側に残存し、棘細胞層間は剥離し、水疱形成がみられる。

水疱内にはTzanck細胞(こぼれ落ちて浮遊する細胞)が認められる。

基底細胞層(破線)は粘膜固有層側に残存し、棘細胞層(★)間は剥離し、水疱形成がみられる。

水疱内にはTzanck細胞(こぼれ落ちて浮遊する細胞)(矢印)が認められる。

  • ガイド無し
  • ガイド有り

口腔粘膜上皮内で基底細胞層と棘細胞層の間に水疱が形成され、水疱内には浮遊細胞(Tzanck細胞)が認められる。

口腔粘膜上皮内で基底細胞層(破線)と棘細胞層(★)の間に水疱が形成され、水疱内には浮遊細胞(Tzanck細胞)(矢印)が認められる。

水疱部の基底細胞層

上皮下粘膜固有層側に基底細胞層が残存している。

IgG蛍光免疫染色

  • ガイド無し
  • ガイド有り

上皮細胞間や浮遊する細胞に自己抗体(IgG)の沈着(緑色蛍光)がみられる。

上皮細胞間や浮遊する細胞(白矢印)に自己抗体(IgG)の沈着(緑色蛍光)がみられる。

IgG免疫染色

棘細胞間やTzanck細胞にIgG陽性を示す。