平成26~29年度理事長 仙波 伊知郎
口腔病理学は口腔疾患の病因と病態を解明し、病理診断という医療行為を通じて社会に貢献している学問分野です。口腔組織は硬軟諸組織から構成されており、口腔が持つ多くの機能を阻害し、また、全身にも影響を及ぼす種々の疾患が発症します。口腔に生じる多様な疾患の病因と病態を理解し、正確な病理診断を実践するためには、歯科医学における知識はもとより、病理学を基盤とした幅広い医学生物学的知識が必要です。日本臨床口腔病理学会は口腔疾患に関連する幅広い教育や研究を推進・支援し、口腔疾患の治療の基盤となる病理診断の充実・向上を図り、口腔病理学の発展を通じて社会に貢献することを目指しています。
本会は1978年に岐阜歯科大学(現在の朝日大学歯学部)で開催された歯科基礎医学会での「口腔病理スライドカンファレンス」に端を発し、1989年9月に日本口腔病理研究会が設立されました。翌1990年7月には、本会との共催で第5回 International Association of Oral Pathologists (IAOP)総会(東京)を開催しました。その後、1995年に日本口腔病理学会と改称し、2006年には特定非営利活動法人化し、2008年3月に日本歯科医学会の専門分科会への加入を契機に特定非営利活動法人日本臨床口腔病理学会と名称を変更し、さらに、2014年には新定款を定め、現在に至っています。その間、日本病理学会、歯科基礎医学会、および口腔外科学会や歯科放射線学会等の歯科臨床医学系の諸学会と密接に連携した活動を展開してきました。
本学会では学術大会時に診断困難症例等を含む症例検討を継続的に行い、口腔疾患の病理診断の発展に貢献してきました。1988年には日本病理学会に口腔病理専門医制度が制定され、これまでに120余名の口腔病理専門医が全国で活躍しています。この口腔病理専門医の実地試験では口腔疾患に関する問題と共に、剖検例を含む病理専門医と共通した全身疾患に関する問題が出題され、口腔疾患を専門としながら一般病理学や全身との関連を理解できる口腔病理専門医の育成を目指しています。この様な制度は世界に類を見ないものであり、全身との関連が重要視されている口腔疾患の病態解明に寄与できる口腔病理専門医を育成するためも重要な役割を担っています。
病理診断には顕微鏡等を用いる形態診断だけではなく、分子生物学等の手法も取り入れられており、また、口腔疾患の分子レベルでの解析と理解を推進し、さらに、口腔と全身との関連を解明するためには、診断病理学と実験病理学を両立して推進する事が求められます。病理診断と病理学的基礎研究を両輪として実践できる次世代を担う優れた口腔病理医を育成し、歯科医療に貢献すると共に、国内外の口腔病理学の発展に貢献できる学会を目指し、幅広い学会活動の更なる活性化を図るため評議委員制度を取り入れた新定款に基づき、新たな学会活動を展開して行きたいと考えています。皆様のご理解、ご支援を宜しくお願い申し上げます。
NPO法人日本臨床口腔病理学会 理事長 仙波 伊知郎