解説
1. 口腔上皮性異形成
- 悪性腫瘍を生じる可能性が高い上皮の変化が、口腔粘膜の重層扁平上皮にみられる。
- 程度により、軽度、中等度、高度に分類される(WHO 2017年、 WHO dysplasia grade)。
- 高度な場合には、上皮内癌との鑑別が困難で、上皮内癌と同義である。
- 臨床診断である白板症、紅板症や紅板白板症などの潜在的悪性疾患では、病理組織学的に上皮性異形成が認められる。
- 潜在的悪性疾患は腫瘍発生段階の一部としてとらえられており、病理診断後には上皮性異形成として取り扱われる。
上皮性異形成の病理組織学的特徴(WHO 2017年)
- 構造異型
- 不規則な上皮の重層化、基底細胞の極性の消失、滴状の上皮脚、核分裂像の増加、表層での異常な核分裂像、細胞内角化、上皮脚内の角化真珠
- 細胞異型
- 核の大きさの不整、核形態の不整、細胞の大きさの不整、細胞形態の不整、核/細胞質比(N/C比)の増大、異常な核分裂像、核小体の増加と増大、核クロマチン量の増加
その他
- WHO分類(2017年)では、上皮性異形成をWHO dysplasia gradeとして軽度(mild)、中等度(moderate)、高度(severe)の3つに分類している。
また、高度の上皮性異形成は上皮内癌(CIS)と同義であるとしている。 - KujanらのBinary system、すなわち低異型度(low-grade)と高異型度(high-grade)の2分類法もWHOのdysplasia gradeの表にも記載されているが、その本文中にもあるように口腔以外の頭頸部領域における2分類法とは概念が異なり注意を要する。
2. 上皮内癌
- 上皮内に限局する腫瘍で、基底膜を越えて粘膜固有層に浸潤していないものである。
- 高度の上皮性異形成は上皮内癌と同義である。
- 肉眼的には白板症、紅板症や紅板白板症様の所見を呈する。
- 以下の2つのタイプがある。
表層分化型:表層に明瞭な層構造が認められ、下層には異型の強い基底層細胞様の細胞の増殖がみられるもので、ほどんどがこのタイプである。
全層置換型:ほぼ全層に細胞内角化や高度な異型細胞がみられるものであるが、口腔ではまれである。
代表画像
口腔上皮性異形成
左側は健常部に相当する。右側の軽度上皮性異形成には、細胞や核の大きさおよび形態の不整がみられる。
CK13免疫染色で健常部では陽性、上皮性異形成では陰性を示す。
CK17免疫染色で健常部では陰性、上皮性異形成では陽性を示す。
Ki-67免疫染色で上皮基底層、傍基底層細胞に陽性を認め、基底層1列目にも陽性細胞が散見される。
p53免疫染色で上皮基底層から一部の有棘層に陽性細胞が認められる。
上皮内癌
異型の強い基底細胞様細胞からなる類滴状の上皮脚が認められる。
異型の強い基底細胞様細胞が角質層部にまで認められる。
このタイプの上皮内癌は比較的少ない。
角質層、有棘層は肥厚し、上皮脚の伸長がみられる。
高度な細胞異型が認められるが、粘膜固有への浸潤はみられない。